【厳選】プロスポーツチームの経営戦略、中断期間中にやっておきたい9個のフレームワーク
- 2020.03.17
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いよいよヨーロッパのスポーツ界にもコロナウイルスの影響が拡大してきました。
日本以上に週末を「スポーツ」という枠の中で時間を過ごすヨーロッパ人に於いて、経済だけでなく、その人々のメンタリティにも多大な影響を及ぼしていますし、先の見えないこの状況でその影響がさらに拡大していくことが予測できます。スポーツビジネス、とりわけスポーツ興行(イベント)の現場に関わる人々にとってはこの「中断」→「再開」の時期をどう過ごすがか、再開後の会社の発展に大きく影響するでしょう。
ということで、今回は私がプロバスケットボールチームの立上げ、そして経営戦略に関わった際の運営会社の経営戦略を考える上でのフレームワークをご紹介したいと思います。立ち上げ期には何度も思考を巡らせて、答えの出ない自問自答を繰り返しこのフレームワークをしましたが、やればやるほどにチームの「勝機」に対する「勝算」に「?」が浮かび、挫折しそうになりましたが、一度フレームワークをやっておくと、今後、戦略に迷った時に立ち返る場所にもなりますし、このフレームワークは時代と経済の流れによって、その時その時変化(加筆修正)させていけばいいので、参考までにこの中断期間の時間を使って、取り組んでみてはいかがでしょうか?
経営戦略のフレームワーク
ずばり、私が取り組んだプロスポーツチームに於ける、経営戦略のフレームワークは下の9個のフレームワークです。
事業ドメインの選択のフレームワークとして、
- 参入市場
- ビジネスモデルキャンパス
- ロードマップ
価値の選択のフレームワークとして、
- 3C
- PEST
- ファイブフォース
- バリューチェーン
- VRIO
- SWOT分析
その他、チーム(会社)の立上げでしたので、経営理念の決定として、
- ミッション(存在意義)
- ビジョン(ありたい姿)
- バリュー(行動指針)
も実践しましたが、今回は中断期間の振り替えりとしてのフレームワークのオススメですので省きます。
事業ドメインの選択
チームを立ち上げる上でも、会社を立ち上げる上でも、事業ドメイン(領域)を設定することは最も重要ですよね。これから自分達がどの領域で、どんな商品を作り、その商品にどんな価値を生み出していくのか、またその領域に新規参入をして勝機はあるのか?事業の継続性はあるのか?というのを判断する上で一番初めにやらなければならないことです。ただスポーツチームにとって、これから自分達がやろうとしている事業ドメインは「プロスポーツチームの運営」と明白なので、ここでは設定というより、参入しようとしている市場の「分析」と「ビジネスモデル」の創造、実現したい「夢」への道筋を描くことにフォーカスして紹介します。
参入市場
事業領域の経済規模を調べるにあたって参考になったのが、日本政策投資銀行さんの地域・産業・経済レポートです。是非、参考にしてみてください。
GDPならぬ、スポーツ産業のGDPである「GDSP」もここで学びました。重要なのは併せて、内閣府が発表している「国民経済計算年次推計」やプロスポーツチームが活動拠点とする行政が発表している「県民経済計算」などを参考にすると、その数字が徐々に見えて来ます。勉強の意味も込めて、各サイトを覗いてみると有益だと思います。
ビジネスモデルキャンパス
ビジネスモデルキャンパスのフレームワークとは、チーム(運営会社)のビジネスモデルを下記の9個の要素に分類し、
- 顧客のセグメント
- 顧客との関係
- キーアクティビティ
- キーリソース
- キーパートナー
- コスト構造
- チャネル
- 提供価格
- 収入の流れ
そして、その要素が相互にどのように関わっているのかを示します。 ビジネスモデルキャンバスのフレームワークは、資料1枚で自分達のビジネスモデルを把握できるので、スポンサー候補の企業や関係するステークホルダーにチームの紹介や会社の紹介をする際に頭の中に叩き込んでおくと、スムーズに説明ができるので役に立ちます。
リーグの中断期間に活用するのであれば、必ず振返ってもらいたいのが、
- キーパートナー
です。
リーグ中は、興行の準備・運営に時間と思考を割かれ、顧客やパートナーのフォローが後回しになりがちです。チーム運営をして行く上で関わる人のフォロー(現状報告や、今後のビジョン)に漏れが無いか、ビジネスモデルキャンパスのキーパートナーを眺めながら、社員全員でチェックしましょう。
ロードマップ
これは是非、ワクワクしながら作ってもらいたい。スポーツチームのロードマップは比較的作成しやすいですよね。理由はコンペティション(リーグ戦、カップ戦)があるからです。各シーズン毎にチーム順位の目標設定をするとすぐにロードマップは出来てしまいます。ただここで気を付けて欲しいのは、試合は水物であり、目標通りの結果を残せるかどうかわかりません。むしろ目標設定に届かないチームのほうが多いでしょう。ですのでここでの目標設定は、
参入市場への仕掛け
- マーケティング施作
- プロモーション
- 営業戦略など
組織の体制強化
- 組織体制
- 人材の採用
- 習得スキル
- 資金調達
の二軸にフォーカスをして、ロードマップを作ってみてください。チームの結果に左右されない目標設定を心掛けてください。
価値の選択
続いては、自分達(チーム、会社)がもつ価値とは何か、他との差別化(価値化)が図れる部分はどこなのかを把握する為に、徹底的に今自分達が置かれている環境分析(外部環境)を行い、そして自分達が持ち合わせている経営資源は何であり、その事業活動の中でどこに強みがあるのかを洗い出します。
3C分析
3C分析は、企業戦略を考える際の環境分析で、「自社(Company)」「顧客(Customer)」「競合(Competitor)」に分けて考えます。まず「自社」の強みと弱みを書き出し、その後書き出した「顧客」と「競合」のリストを見つめながら、自社が持つ課題や成功要因を導きだし、有効な計画を立てることに役立ちます。ポイントは弱みの部分は包み隠さず書き出すということと、競合に関しては、自分達が市場参入しているドメインより少し広い領域にも目を向けて、書き出して見ることです。そうすれば思わぬ領域からの新規参入(競合)にも対応できるかもしれません。
PEST分析
PEST分析は「外部環境」のうち自社で統制することのできない「マクロ環境」を分析し、その企業の外部環境を大きく4つの要因に分けて、こうした外部要因が自社の計画にどのように影響を与えるか?を把握・予測し、経営をはじめとした戦略を検討する為に活用します。外部環境の4つとは、
- Politics:政治要因
- Economics:経済要因
- Society:社会要因
- Technology:技術要因
このPEST分析は今まさに重要かもしれません。数か月前に分析をした際には全くもって予想していなかった「新型コロナウイルス」によって、この外部環境が大きく変わるかもしれません。どのチーム、スポーツ団体も東京オリンピックに向けて、スポーツ産業の拡大・発展を唱ってきましたが、それが実現されない、その危機に直面しているかもしれません。
ファイブフォース分析
ファイブフォースは、チーム(運営会社)を取り巻く業界の収益構造を把握するための考え方を分析するツールです。 以下に示す5つの要因に対し、それぞれの力強さや関係性を分析することで事業戦略に役立てることができます。
- 競争企業間の敵対関係
- 新規参入業者の脅威
- 代替品の脅威
- 供給企業の交渉力
- 買い手の交渉力
それぞれを記入する上でのポイントは、
- 競争企業間の敵対関係
→直接競合はどれくらいか?業界の特性、競争業者の数、 マーケティング的競争は?
- 新規参入業者の脅威
→参入障壁はどれくらいか?参入投資額 、技術力・経験 、規制などの障壁は?
- 代替品の脅威
→関節競合の脅威はどれくらいか?マーケティング的コスト 、コストパフォーマンス 、買い手の意識変化は?
- 供給企業の交渉力
→供給元で自社の優位性はどれくらいか?値上げ 、供給不足 、供給業者の数 、材料の希少性は?
- 買い手の交渉力
→販売先で自社の優位性はどれくらいか?・値下げ 、需要減、買い手数の数 、製品の希少性 は?
以上を整理するとわかりやすくなります。この分析はマーチャンダイズ(グッズ販売)やスポンサー営業の担当者が活用すると有効的かもしれません。プロスポーツチームはある一つのスポーツ競技に絞れば、一地域に一つ存在(他スポーツを入れれば多数ありますが)するのが大都市圏を除けば大抵ですので、同業の競合他社を想定しにくいです。ですので、グッズ販売に於けるコスト削減や、スポンサー営業に於ける、他広告媒体との費用対効果の比較などが想定しやすいかもしれませんね。
バリューチェーン分析
バリューチェーン(価値連鎖)は事業活動で、どのフェーズで価値を出しているのか分析するためのフレームワークです。この分析をすることによって、自社の事業活動の中でどこの段階で競合に対して、差別化、強みを生み出すことができるかを把握し、事業戦略を導き出す事に役立てます。それぞれのフェーズは、
- 商品企画
- 仕入れ
- 広報・告知
- 販売・集客
- サービス
の段階に分けます。またスポーツチームに於いては、事業活動を、
- スポンサーセールス
- チケットセールス
- グッズ販売
- スクール事業
ぐらいにわけて、それぞれの事業活動をフェーズ分析し、強みを導き出しましょう。もちろん、事業活動を細かく分ければ分けるほど、戦略の精度は上がって行きます。
VRIO(ヴリオ)
VRIO(ヴリオ)はチーム(運営会社)が所有する経営資源を4つの視点で評価し、 企業が持続的に競争優位性を保つ為の内在価値を探るフレームワークです。その四つの視点は、
- Value:経済価値
- Rarity:希少性
- Imitability:模倣困難性
- Organization:組織
では、経営資源とは?と思った方は下記の4つが一般的な経営資源です。
- ヒト
- モノ
- カネ
- 情報
ただ、個人的にはプロスポーツチームの経営資源に、
- ブランド
を追加したいと個人的には思ってます。そのチームが持つブランドイメージ、そのある特定のイメージの強さは数字に表すことはなかなか難しいですが、日本のスポーツチームの海外マーケティングや海外チームの日本マーケティングをしている経験から、この「ブランド」という目に見えない、人々の心の中にある「イメージ」は良くも悪くも、経営資源になり得ると個人的には考えています。セグメント、ターゲティングされた顧客に対して、それぞれが持つ「ブランド」イメージをデータとして持ち合わせていれば、商品開発やSNSのコンテンツ制作のアプローチの仕方を変える事にも役立ちます。
また経営資源を評価する上でのポイントは、
- 【経済価値】その経営資源は顧客の嗜好、業界の構造、技術動向などに照らし経済価値があるか。その資源を持つことで脅威やリスクが減ったり、機械が増大するか。
- 【希少性】その資源は、ごく少数の企業しか所有していない希少な資源であるかどうか。
- 【模倣困難性】競合他社がマネできない資源であったり、類似の資源を獲得するために技術開発やチャネル形成やブランド構築に莫大なコストのかかる資源だったりするか。
- 【組織能力】価値があり、希少で模倣困難な資源を活用する為の組織体系やマネジメントが整っているか。
以上を軸に評価をしてみてください。経営者の方であれば、このフレームだけを作って、社員の方にも評価を記入してもらったら、客観的に把握できる部分もあるかもしれませんし、こういった相談や依頼を上司や経営者から受けた社員さんは、「自分も経営に参加してる、信頼されている」と思いモチベーションUPにも繋がるかもしれませんね。ただ注意してもらいたいのは、このフレームワーク全体を社員全員でやろうとすると方向性が見いだせず、最後まで辿り着かない事態に陥りますので、あくまでこれは会社の根幹を考察、決定するフレームワークですので、一部のフレームワークで意見を聞くのは良いですが、会社の主軸を担うメンバーのスモールチームで作成することをおススメします。
SWOT分析とクロスSWOT分析
これは、多くの方が聞いたことがあるのではないでしょうか?何か新規事業を始めたり、新しいアイディアを提案する際に、上司から「SWOT分析はしたのか?」とまず聞かれたりしますよね。SWOT分析は、競合や新規参入の脅威、法律、市場のトレンド、マクロ環境といったチーム(運営会社)を取り巻く外部環境と、チーム(運営会社)の資産、ブランド、価格や品質といった内部環境を、強み(プラス面)と弱み(マイナス面)にわけて分析することで、今後の戦略決定やマーケティングの方向性の決定、経営資源の選択と集中、最適化などをする為のフレームワークです。
普段では、まず最初に取り掛かることが多いフレームワークとしてのSWOT分析ですが、ここでは最後に持って来ました。なぜならSWOT分析で必要な情報が、先に紹介したフレームワークの中で、そのほとんどが出て来ているからです。いざ「SWOT分析をしろ!」と言われてもなかなか手が進まずに、時間ばかりがかかってしまったことがないですか?私の個人的な感想ですが、そのSWOT分析をする上でもっと先に紐解いていかなければならないフレームワークがあると思ってます。そのフレームワークが上記に紹介してきたそれぞれのフレームワークだと私は思っています。
正直、私も経営戦略を立てる上で、様々な経営戦略のフレームワークを調べました(独学)が、どれも取り掛かる前はこれが本当に経営戦略、課題解決に繋がるのか?と思いました。があくまでフレームワークはフレームワークであり、重要なのはそのフレームを眺めながら、答えを導き出そうとすることです。明確な答えが見えなくとも、課題解決の仮設を立てる上では十分すぎる情報がそのフレームワークから見えて来ました。
その情報の「まとめノート」としてSWOT分析を作成し、そのSWOT分析から何に重点を置くかを考え、経営資源を有効活用する戦略を立てるフレームワークがクロスSWOT分析です。 その組み合わせの仕方は、
- Strength × Opportunity (強み × 機会)=SO戦略
- Strength × Threat (強み × 脅威)=ST戦略
- Weakness × Opportunity (弱み × 機会)=WO戦略
- Weakness × Threat (弱み × 脅威)=WT戦略
主にSO戦略とWO戦略は攻め、ST戦略とWT戦略は守りの戦略を立てる事に活用します。その選択と組み合わせは自由で、さまざまな戦略が見えて来ますが、 整合性が取れ、かつ経営資源に対する成果が最大になるような組み合わせを検討しましょう。
まとめ
起業をする際や、中小企業向けのコンサルティングで良く使われる経営戦略のフレームワークですが、
メディアの露出が多いことや、スポーツ界の華やかなイメージがあり、規模の大きな安定企業が運営していると思われる事もある、このプロスポーツビジネス業界。
既に関わっている方からすれば外から観ていたスポーツ界と実際に中に入った時のギャップに苦しんだ経験があると思いますので周知の事と思いますが、プロスポーツチームの大部分は中小企業です。チームとリーグがあり、コンペティションの結果があれば、何となく会社が回っているように感じますが、その営業活動、集客は常に難しさを伴います。
時間に追われて、経営戦略を見直す時間もないのが実態だと思いますが、新型コロナウイルスによるこの中断期間を利用して、一度、経営戦略をフレームワークから見直す事も良いのではないかと思っています。
その思いの裏には、今後スポーツ界の構造が大きく変わる様な予感がするからです。その変化に対応できる準備をして行く為に役立つかもしれません。
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