スポンサー契約書の作成方法を必須6項目で解説【スポンサー契約の未来】

スポンサー契約書の作成方法を必須6項目で解説【スポンサー契約の未来】



今回は、プロスポーツチームにとって一番大きな収入源と言ってよい「スポンサー」契約において、

スポンサー企業と、どんな内容を決めればいいの?
スポンサー契約書を作成する上での注意点は?

という疑問に、「契約書」の作成方法を必須6項目に分けて解説していきたいと思います。

この題材をピックアップした経緯としては、新型コロナウイルスの影響で世界中のスポーツイベントが「延期」「中止」「無観客」にしなければならない状況に陥っています。興行(イベント)が「延期」「中止」「無観客」となった際に、チームのスポンサー営業担当者が、目を背けずに確認しなければならないのが、スポンサー企業との「契約書」になります。

万が一、「中止」が決定した場合、スポンサーとチームがコミットしたスポンサー企業広告の露出機会が減少してしまいます。その際、契約書上、この「失われた広告機会」に対する、考え方、対応、補填等、様々な角度からスポンサー企業と協議をしなければなりません。スポンサー企業の数が多ければ多いほど、その協議にかかる時間と労力はもちろん増えていきます。

Bリーグに関しては、既に「中止」が決定された試合がありますので、その「失われた広告機会」に対する協議がチームとスポンサー企業との間でなされ始めていると思いますが、まだ「中止」の決まっていない、Jリーグのチーム関係者、特にスポンサーセールスの営業担当者はこの時期に、「中止」になった場合の対応を考えておくことが重要です。

中止になった場合は、スポンサー契約の内容確認

スポンサー契約書作成の必須6項目

スポンサー契約書を作成する際の、必須項目は

  • 広告媒体について
  • 付帯権利について
  • 契約期間について
  • 掲出条件について
  • 広告料金について
  • 支払い条件について

以上の6項目です。

また本ブログ記事内の最後にも少し触れますが、

  • 権利譲渡禁止条項
  • 契約の解除・解消

については、関わる法律等もありますので、ここでは深くは触れず(弁護士ではないので)、私見として考えられるリスクについて簡単にお伝えできればと思っております。

広告媒体

まずはじめに、広告媒体についてです。

これはスポンサー企業がチームが販売している「広告枠」について検討し、企業の予算にあった「広告枠」を購入し、その定められた広告枠の中に、自社の広告や、企業ロゴを掲出する「場所」の事です。

広告媒体の例として、

  • 公式戦ユニフォーム(胸、袖、背中、パンツ等)
  • 練習着(ウォーミングアップ時着用)
  • 試合会場のピッチ、コート内の看板(LED看板、A型の自立式看板)
  • 試合会場壁面の看板、横断幕
  • 試合会場内の大型映像装置
  • 記者会見、インタビューの際のバックボード

等が該当します。上記の通り、本ブログ記事ではホームゲームの試合会場の広告媒体にフォーカスして記載していきます。

スポンサー企業と契約する広告媒体が決定したら、確認しなければならない内容は、

リーグのルールに準じた、掲出可能な広告の規定サイズやルール
掲出する広告データの納品形態(aiデータ、静止画、動画など)

を確認する必要がありますので、それぞれ掲出する広告にあったルールやデータの納品形態を把握しておくことも、スポンサー営業担当者の重要な役割です。

規模が大きいチームであれば、契約から先の掲出に伴う実務を他部署(広報やシステム担当者)に任せる事ができると思いますが、まだまだ小さな地方チームなどは、営業担当者が最後までやり切らなければならないことも多いでしょう。

付帯権利

この付帯権利については、チームによって様々ですし、スポンサー企業との契約金額により、よくカスタムされる部分だと思います。

ですのでここではごく一般的な付帯権利について紹介します。

  • スポンサーであることの呼称権利
  • チームロゴ、エンブレムの使用権利
  • チーム公式ホームページ内での社名掲出
  • ホームゲームの招待チケット
  • ホームゲーム開催時の試合会場の専用駐車場
  • ホームゲーム開催時のスポンサーパスの発行

などがあります。

チケット、専用駐車場、スポンサーパスなどについては、その権利枚数に関して、しっかりと契約書に明記しましょう。

またここで注意してもらいたいのが、

チームロゴ、エンブレムの使用権利

です。注意するポイントは、ロゴやエンブレムの使用が

「広報」目的なのか、「販促」目的なのか

で、使用範囲に関して協議を必要性が出て来ます。

ここで簡単な例を出すと、ロゴやエンブレムをスポンサー企業の公式ホームページ内で、チームのスポンサーであることを「広報」することと、スポンサー企業が「販売促進」を目的としたキャンペーンなどの告知サイトやチラシ、ポスター等に使用する際では、意味合いが違うということです。「販促目的」として使用する際は、チームがそのスポンサー企業の商品を「推奨」していると消費者側から捉えられることがあるでしょう。もちろん契約の中で「販促目的」として使用を許可しているのであれば問題ありませんが、「広報」目的での使用のみで契約をしている場合、その判断基準がかなり微妙になります。

スポンサー企業側はあくまで「広報」目的と言い切っても、チーム側からすると明らかに「販促」目的につながりますよね…と思った経験がある方も多いのではないでしょうか?

もちろんご支援いただいているスポンサー企業様ですので、なるべくその営業に協力したいと思うのがチームですが、揉めたくはないですよね。ですので、この部分の注意事項は、

ロゴ、エンブレムを掲載する媒体(HP、チラシ等)のデザインは必ず事前に確認する
権利として販促利用できるスポンサー企業の基準(金額)を設定する

ことです。

契約期間

ここはシンプルですね。20××年××月×日から20××年××月×日などの契約期間の記載です。
チームの決算時期と、スポンサー企業との決算時期が違う場合もありますので、

必ずしもコンペティション(リーグ、トーナメント)の期間と契約期間が「=(イコール)」になるとは限りません

よく行政関係ですと、年度が4月始まりですので、このズレが生じます。
ですので、事項に記載する「掲出条件」に於いて、このズレが生じる契約に関しては注意が必要です。

掲出条件

次に掲出条件です。

ここでいう「掲出条件」とは、前項の契約期間内にスポンサー企業の広告媒体が、

どのコンペティション(リーグ戦、トーナメント戦、親善試合など)に、どの頻度(ホームゲーム試合数など)で掲出されるか

を記載する項目になります。

前項で契約期間のズレを説明しましたが、このズレがある場合、例えばJリーグで考えると、契約期間が2020年4月~2021年3月と2シーズンをまたぐ場合、

2020シーズンの途中(4月)から、2021シーズンの途中(3月)までのコンペティションが掲出条件に該当します

また、またぐ翌シーズン(例だと2021シーズン)のホームゲームの開催回数や、もっと言えばカテゴリー(昇降格によって)が変わる可能性もありますので契約書の「掲出条件」の記載の仕方には注意が必要です。

広告料金

ここもシンプルです。広告料金とは、

チームとスポンサー企業がコミットした広告露出効果に対する対価の設定

です。この金額設定は該当するプロスポーツチームの所属リーグやカテゴリーによって、ある程度似た基準はあるものの、設定金額は様々です。

また、私の経験からして、同じ広告媒体で、日本のプロスポーツチームのスポンサー料と、海外のプロスポーツチームのスポンサー料を比較すると、もちろん平均観客動員数の違いや視聴率の違いから、桁一つ…いや二つ違う事もありますが、たまに

「え?この金額で海外スポーツクラブのスポンサーになれるの?!」

とビックリすることもあります。

その度に、日本のプロスポーツチームの金額設定には根拠が少ない…と思う事が多々ありました。
この日本のスポンサードと海外のスポンサードの比較に関しては、また別の機会に書きたいと思います。

支払い条件

支払い条件に関しては、チームとスポンサー企業によってその条件は様々です。

毎月払い、四半期、半年、年払いなど、

その契約毎に違うと思いますが、一般的なのは年払いでしょう。

これはチームの懐事情も大きく関わっています。なぜなら、チームの運営会社は興行(ホームゲーム)を開催する毎に、チケット収入やグッズ収入、飲食売店の収入を得る事ができますが、新シーズンのチーム始動からリーグの開幕までの数か月(各種プロスポーツリーグによって異なりますが)は興行の開催がない為、その大きな収入源がありません。

しかし、新チームは指導していますので、選手への給料の支払いが発生しますし、新加入の選手に移籍金や代理人手数料が発生する場合は、その支払いも経営を圧迫します。それらの支払いの収入源となるのが、新シーズン始動からの数か月はスポンサー収入に頼らざるを得ないのが実情です。

ですので、チーム運営会社としては、スポンサー料を年一括払いでスポンサー企業から受け取り、毎月の資金繰りに回したいのが本音でしょう。

新シーズンが始まった数か月間は興行が無い為、頼りはスポンサー収入

その支払い条件の交渉に関しても、スポンサー営業担当者の大きな役割の一つでもあります。

その他

その他の条項として、少し触れておきたいのが

  • 「権利譲渡禁止条項」
  • 「契約の解約・解消条項」

です。「権利譲渡禁止条項」は、スポンサー企業がスポンサー契約を結ぶことにより得た権利権益を、第三者に譲り渡す行為の禁止です。例えば、いくつかグループ会社や子会社を抱える親会社企業がチームとスポンサー契約を締結した場合、知らぬ間にそのグループ会社や子会社までも、その権利権益を使用してしまうことを防いだりする為です。

または、スポンサー契約の締結により得た、広告媒体を全く別の企業に譲り渡し、広告媒体には元のスポンサー契約企業ではなく、別の企業ロゴや商品の広告が出る事を防ぐ為などです。

そして、私が今回、新型コロナウイルスの影響で一番懸念しているのは、

「契約の解約・解消条項」

です。

この「契約の解約・解消条項」とは、下記の事項が起こった場合に、「契約の解約・解消」ができ、またその当事者は契約を履行しなくとも、責任を問われない可能性があるという条項です。

その事項というのが、

  • 明らかに契約当事者のどちらかに非があり、契約の履行が不可能と双方協議の上、判断された場合
  • 破産、特別清算、会社更生や民事再生の申し立てがされた時
  • 火災や天災、法令等の改正などの「不可抗力」により、契約の目的達成が困難となった場合

です。仮に開催予定の試合の大半が「中止」となった場合、もちろんチーム運営会社は興行収入がありませんので、経営の危機に立たされますし、スポンサー企業も広告の露出機会を失った契約に、そのまま満額支払うとは考えにくいです。チームもスポンサー料を減額されることは避けたいです。

しかし、スポーツイベントの「中止」が決定された場合には、誰かがこの「痛み」を受けなければならないのです。チームとスポンサー、共に支え合って来た企業同士ですので、協議を重ね、お互いにとって、納得の行く結論を出してもらいたいですが、気持ちの部分では理解はしていても、ここは契約社会です。最後に優先されるのは契約に記載されている条項です。

この新型コロナウイルスによる緊急事態が、契約書上ではどう解釈されるのかがポイントです。
つまり、この新型コロナウイルスによる事態が、契約書上の「不可抗力」に該当する場合は、契約当事者間には契約履行の責任が無くなる可能性もあります。

「新型コロナウイルス」が「不可抗力」と解釈されるかがポイント

今後、この「不可抗力」に関する見解の議論に注目していきたいと思います。
チーム関係者はこの時期に、顧問弁護士等と見解を一致させておくことが重要です。

まとめ

ここまで、スポンサー契約書の作成に於ける、必須6項目とその他懸念事項について触れて来ました。

最期にお伝えしたいのは、

スポンサー契約(書)の未来

についてです。

全てではないですが、スポンサー契約(書)の多くは、「興行(試合)」に於ける「露出」に大きな比重がかかっています。つまり、「興行」が開催されなければ、その「費用対効果」を得る事ができないということです。

今回、新型コロナウイルスにより浮き彫りになった、「露出機会の損失」という問題を考えた時、契約(書)の比重を「興行」中心ではなく、「デジタル」や「日常」にシフトした契約にしていれば、このような事態でも、スポンサー企業は大きく「露出機会」を損失することはないですし、チームとしても、スポンサー収入減を恐れる事もないでしょう。

つまりどういうことかというと、スポンサー契約の広告料の設定根拠を、興行(試合)に於ける「広告価値」に比重を置くのではなく、チームのホームページのページビュー数やSNSコンテンツの露出機会やエンゲージメント率に根拠の比重を置くということです。これは興行の有無に関わらず、チームの日常の努力で「高める」事ができるからです。

もちろん、興行(試合)に於ける「広告価値」は、試合の放送(配信)やメディア露出の効果などで、その価値は高く、チームのオウンドメディア(公式ホームページや公式SNS)のみで、その「広告価値」を埋める事は、高いハードルです。

私の個人的な経験ですと、海外クラブは特にこの比重のシフトがかなり進んでいるように思います。確かに、ユニフォームに企業ロゴを入れることは目立ちますし、スポンサー企業の満足度も高いでしょう。ただしかし、スポーツビジネスに於ける「投資対効果」の面で考えると、もっと別の場所にビジネスチャンスがあると考えるチーム、スポンサー企業は増えて来ています。

本ブログ記事に重ねて、考察すると、

「広告媒体」の「デジタル」シフト

が重要と考えます。

プロスポーツビジネスのスポンサー広告はそのファン・サポーターのネガティブ感情もポジティブ感情も含めて、「感情(感傷)的」タッチポイントが多くある広告媒体です。またその「感情(感傷)的」タッチポイントをうまく掴むことにより、その印象(広告)を深く人々の心に刻むことができるのが特徴です。

この特徴を生かした、海外クラブのデジタルマーケティングに関しては、また別の機会にご紹介したいと思います。