プロスポーツ選手契約書作成のポイント解説【外国人選手版】

プロスポーツ選手契約書作成のポイント解説【外国人選手版】

以前、本ブログでプロスポーツ選手契約書作成のポイント解説【重要なのは個別契約書】を書かせていただきましたが、今回は

はじめて外国人選手と契約するんだけど、何を決めたらいいの?
何だか色々経費が増えそう、何に注意すればいいの?

という疑問に関して、プロスポーツ選手契約書作成の外国人選手版を、私の経験から、チームと選手間で契約条項として良く挙がる内容と、その条項の作成にあたり注意する点をお伝えできればと思います。

外国人選手の契約書作成ポイント

一般的なプロスポーツ選手の契約書の作成ポイントは、

  • 基本契約書の作成
  • 個別契約書(覚書)の作成

でしたが、外国人選手との契約の際にはこの個別契約書の中に、

  • ビザの取得
  • オフの帰国の際の往復航空券
  • 通訳
  • 家族のサポート(同居の場合)
  • 保険の加入
  • 免許証の更新

を含めることがあります。

該当する外国人選手それぞれで、上記の内容は変わってくるとは思いますが、一般的に外国人選手が日本に移籍をする上で、必要最低限な項目と私の経験上から議題に上がった項目をご紹介したいと思います。



ビザの取得

外国人選手との契約交渉が大筋まとまった際、チーム側の担当者が一番に動かなければいけないのが

ビザの取得

です。この「ビザ」の取得に対する全面サポートを契約書に盛り込むこともあります。

その理由は大きく分けて、2つあると思います。

一つ目は、

「ビザの取得」と「公式戦出場の開始時期」は「=」です。日本での「興行」ビザを取得していない場合、当たり前ですが「興行」である公式戦には出場できません。ですので、「ビザの取得」のサポート体制は選手にとっては気になる所です。ですので、チームの過去のビザの取得に対する関する実績や、該当する外国人選手の出身国によって、その取得期間は変わってきますので、ここでの契約書の記載は、ビザ取得にかかる「時期や期間」の誓約ではなく、「サポート体制」の誓約を選手側は確認しておきたいはずです。

「ビザの取得」と「公式戦出場の開始時期」は「=(イコール)」

二つ目は、

家族に対する「ビザの取得」のサポートです。これは、移籍に伴い、家族の同居を必要とする場合には大切な項目です。選手のパフォーマンスを向上させる為には、家族の同居は最も効果的です。契約年数や、その外国人選手の家族構成により、同居の有無は様々ですが、家族を呼ぶ予定の選手にとっては、家族のビザ取得のサポートも契約書にしっかりと記載しておけば、安心して契約を締結することができますね。

「家族へのサポート」はパフォーマンスの向上に繋がる

往復航空券

外国人選手はシーズンのオフの期間や中断期間に母国への一時帰国を希望します。その際の飛行機代の負担を、チームと選手どちらがするか?ということを契約書に記載します。記載する内容は、

  • 往復区間(例:日本⇔ブラジル)
  • 往復の回数
  • 座席のクラス(例:ビジネスorエコノミー)

が必須です。ここでの注意点は、

航空券の予約はチームがする

ことが重要です。選手に任せると、高額なチケットを購入してしまったり、オフの予定もチーム側が把握していますのでチケットの早期割引予約ができたり、もしチームに旅行会社や、航空会社のスポンサーがいれば安く購入できる可能性があります。スポンサー側の売上もあがりますので、お互いにとってメリットがありますね。

ただ逆に選手側にも好意にしている旅行代理店がいる可能性もあり、たまに予約は自分でしたいという外国人選手がいます。その場合の注意点としては、

年間の航空券代の限度額を設定

することが懸命でしょう。選手に任せた結果、高額のチケットを予約して後日チームに請求され、無駄な出費が増えてしまうなら、ある程度の費用を概算し、その金額を年間の限度額として、契約書に記載することが損失リスクを抑えることになります。

また、あくまで限度額の記載にしておき、支払いは実費精算にしておけば、ベストな交渉といえるでしょう。

通訳

サッカー、バスケットなどチームスポーツに於いて、より深いコミュニケーションはチーム力の向上、そして個人のパフォーマンスの向上に重要な要素です。ですので、外国人選手にとって、

円滑なコミュニケーションが一番重要

なようにも感じます。

この通訳の手配の必要性や、その通訳のコストがチーム負担なのか、選手負担なのかを契約書に於いては記載が必要です。

逆に日本人選手の海外移籍に関しては、この部分が選手が成功するか否かのポイントかもしれません。

ベストはその国の言葉に関しての知識があり、自力でコミュニケーションを取れることです。常に通訳を介してコミュニケーションを取る選手はやはりチームから少し距離ができてしまいますし、練習の際に通訳がいる事を嫌う監督やコーチもいるはずです。

このコミュニケーションの重要性はこちらのブログにも少し記載していますので参考までに。

大抵の場合、チーム負担で通訳を手配するでしょう。そして、この通訳選びがチーム側は慎重にする必要があります。チームの運営会社からすると一選手の通訳ですが、その通訳からすると仕事の対象は当該外国人選手のみになりますので、否が応にもその選手に対して感情移入をして行きます。つまり、会社が雇っているはずなのに、いつの間にか選手側に雇われているかのように、選手の意思表示の通訳のみをしだします。もちろん、選手の考えている事、意思を正確に伝えることは仕事ではあります。が、私が見てきた中では、優秀な通訳さんは「選手」と「チーム」の間で「中立」に仕事ができる方だと思いますし、双方にとって良い仕事になると思っています。

外国人選手とチームとの間で中立なスタンスを維持できる通訳さんがおススメ

家族のサポート

この項目は、横断的に先にお伝えした「ビザの取得」「往復航空券」、そして「通訳」にも関わってきますが、外国人選手の家族の同居がある場合には、その家族に対するサポートの記載も重要です。経験上、選手側から要求されたことがあるのは、

  • 家族のビザの取得
  • 家族の往復航空券
  • 家族の生活面の通訳
  • 子供の学校への入学サポート
  • 子供の習い事のリサーチ

等がありました。正直、「そこまで?!」と思う項目もあるかもしれませんが、異国の地に来る家族にとっては、ましてや日本に来ることが初めての家族にとっては、多くの不安があることは容易に想像できますよね。その不安を契約の際、また入国後の早い段階でクリアにすることは、何より、選手のパフォーマンスの向上に繋がりますので、「先行投資」だと思って担当者の方には頑張ってもらいたいところです。

保険の加入

この保険の加入に関しては、2種類あります。

選手との契約で直接的に関わる、

国民健康保険

と、チームのリスクマネージメントとしての、

選手不稼働保険

です。

契約書に記載の必要性があるかもしれないのは、国民健康保険です。選手は日本人選手、外国人選手ともに「個人事業主」である為、国民健康保険への加入となります。これに関しては、該当する行政機関に必要書類を持って行き手続きを進める事ができますし、移籍直後は選手もバタバタしていて時間がありません。代理申請も可能ですので代理申請の際は委任状(本人の直筆の署名が必要)等の必要書類を準備することを忘れないでください。契約前の選手の不安を取り払う為にも、日本の保険制度に関して、伝えられるようにはしておきましょう。

選手不稼働保険に関しては、聞きなれない言葉かもしれませんが、

選手が長期のケガ等で選手としての活動ができなくなった場合に、その期間の選手年棒をカバーする保険

のことです。

審査には選手の過去のケガの履歴が全て必要で、その履歴と年棒から、保険料を計算しますが決して安い金額ではないので、運営会社の中でその選手の年棒と、保険料を良く比較した上で、選手不稼働保険に加入するかどうかをよく検討してみてください。

免許証の更新

外国人選手の出身国によっては、出身国で国際免許の申請をして、その国際免許証明を持参すれば日本国内で車を運転することができます。

しかし、多くの場合が有効期間が限定的ですので、複数年契約を結ぶ選手に関しては、正式な国際免許への切り替えが必要になります。

こちらも、チームが拠点とする地域の警察署の手続きに準じた切替をしてください。注意してもらいたいのは、

場所(特に地方)によっては、手続きの予約に時間がかかる
その間、選手の送り迎えの費用や、人的労力は負担になる

ですので、なるべく早めの予約を心掛けましょう。

まとめ

ここまで、簡単ではありますが外国人選手との契約書作成に関する、私の経験上、必要だと思う特別な項目や、注意点をお伝えしてきました。

日本のチームからすれば助っ人として、契約した外国人選手です。同じ年齢、同じポジションの日本人選手を獲得するより、移籍金、エージェントフィー、通訳、生活環境の準備でより多くの費用がかかったはずです。

そんな助っ人選手が、思うような結果を出せなかった場合、その獲得に動いた担当者、そしてチームはファン・サポーターから非難を浴びます。できればその状況は回避したいところではありますが、どこまでチームにフィットするかは未知数です。

ですので、契約交渉の段階でお互いにとって納得の行く、完璧な契約書を作成することは勿論ですが、

外国人選手が移籍後も、その本来持っているパフォーマンスを存分に発揮してもらう為には、様々なサポートも同じぐらい重要です。

期待に胸膨らませてきた外国人選手が、本来の力を発揮できずに帰っていった姿を何度も見てきました。チームの強化としても、残念な結果ですが、チームの予算面でも大きな痛手になります。

今回お伝えした項目はそんなに細かい事まで契約書に記載する必要なないと思うかもしれませんが、このタスクに関して「誰がやるのか?」に対して、

責任区分を明確にしておくこと

が重要です。曖昧な契約書の作成は、

プレー以外の面で選手とチームの信頼関係の構築の阻害要因

になりますので、根気強く、交渉、作成をしていただければと思います。