ズウォレ中山雄太から学ぶ、海外移籍で成功する為に必要なこと【内的要因と外的要因から分析】
- 2020.03.08
- サッカー
今回は、オランダのフットボールマガジン「Voetbal International(2020年2月19日号)」のズウォレ中山雄太選手の特集記事(ライター:Stef de Bont)の中から、私の独自の経験を織り交ぜながら、「海外移籍で成功する為に必要なこと」を書いていきたいと思います。
海外移籍で成功する為に必要なこと
ずばり、「海外移籍で成功する為に必要なこと」は、
- コミュニケーション力
- 資金調達
- ロックスター
- ハードワーク
上記以外にも、もちろん大切な要素は沢山あるのですが、今回はこの記事の中で興味深かった内容から、上の4つにフォーカスして書いていきます。
コミュニケーション力
これは海外移籍に限らず、国内移籍でも、そして一ビジネスマンにとっても、仕事を成功させる上で必要な力であることは、誰もが社会に出て経験をしていますよね。
特集記事では、中山選手は移籍当初は言葉や文化の違いで苦労はしていたが、今では全く英語のコミュニケーションには問題はなく、YouTubeを見て勉強をしたり、日本のエージェントと英語でのみ会話をして
をしているそうです。同じ日本人のファン・ウェルメスケルケン・際選手が昨夏に移籍してきたことは、英語のコミュニケーションの助けになったが、なるべく際選手に頼らず、英語で他の選手と会話をし、ミーティングの時も積極的にアシスタント・コーチの隣で話を聞くようにしているとのこと。
どんなプログラムや素材を使って勉強しているか気になるところではありますが、オランダは中学生から義務教育でガッツリ英語教育がありますので、ヨーロッパの中でも英語のコミュニケーション能力が特に高い国でもあります。そんな環境も中山選手の英会話の上達を助けているかもしれません。
ただ、私がここで伝えたいのは、「コミュニケーション力」とは、単に多言語を操れるからコミュニケーション力が高いということではなく、「コミュニケーション」を取ろうとする努「力」でしょう。中山選手にはその努力の才能が備わっているのだと思います。
ちなみにこの記事を読んだ後にこの動画をみたら、中山選手がいかにクラブに溶け込み、コミュニケーションが取れているかわかるので参考までに。
Dancing with the Stars, PEC Zwolle edition… Aflevering: Yuta Nakayama @Nkymyt #peczwolle #doemaardansjedan #onsblauwwithart pic.twitter.com/M3UNkWaAoW
— PEC Zwolle (@PECZwolle) March 16, 2019
私の経験を紹介すると、16歳~17歳の選手3人をヨーロッパクラブに短期留学させた時の話です。異国の地での留学経験は、世界とのレベルの差や、練習方法、外国人選手のハングリー精神などを、間近で見て、肌で感じることができます。短期間ではありますが、ピッチで得たものは素晴らしい経験だったことでしょう。
しかし、このプログラムで唯一失敗したな、と思ったことがります。それは、
です。
練習中でも見受けられましたが、ロッカーでの時間、練習に向かうバスの中、食事中まで、やはり日本人同士で固まってしまい、外国人選手と身振り手振りでコミュニケーションは取るものの、全ては受動的で相手から話しかけられれば、ジェスチャーで返す、選手によっては、ただはにかむだけ。積極的に外国人選手とコミュニケーションを能動的に図る機会を減らしてしまったと、反省しました。
これは彼らが悪い訳ではなく、海外旅行の経験も無く、まだ高校1年生、2年生の選手がいきなり海外に行けば、そうなってしまうのは当たり前でしょう。私のプログラムが良くなかったと今でも反省しています。ですので、その翌年のプログラムでは選手を一人に絞り、
事にしました。もちろん、決断はしたもののさすがに一人は心細いだろうと思い、できる限りのサポートはしようと考えていましたが、留学初日に楽しそうにロッカールームで外国人選手と肩を組んだ写真が送られてきた時、私の心配は無駄に終わりました。
もちろん特別に指示をしなくても、自然とコミュニケーションが取れる選手もいれば、そうでない選手もいます、その状況や選手の性格に応じて、環境を選択することも、海外移籍や留学に於いては重要なことかもしれません。そしてコミュニケーションを取る努力は、ピッチでのプレーと同じぐらい積極的にチャレンジさせたいですね。
資金調達
海外のクラブにとって、日本人(外国人)は助っ人です。限られた枠の中で、日本人を獲得するということは、同世代、同ポジションの自国の選手を獲得するより、リスクを伴うことは容易に想像できますよね。
Jリーグクラブに来た助っ人外国人が結果を出せなければ、フロントの責任を問われますし、コストも日本人獲得よりもはるかに高額です。若手の日本人選手であっても、契約条件によってはその移籍金、給料、その他外国人選手獲得に伴う諸費用(税金、生活環境の準備、通訳等)はクラブの負担になります。
それでも獲得するメリットがあるかどうかをクラブ経営者は判断しなければなりません。では、なぜ決してオランダ国内でもビッククラブではない(ズウォレサポーターの方スミマセン…)ズウォレが中山選手を獲得したのか、その背景を少し特集記事から紹介します。
その背景には、
- 仲介者の存在
- 日本の共同出資者の存在
があったそうです。私の勝手なオランダ語の解釈にはなりますが…中山選手がJリーグの中でも躍進した2017年、英国のエージェントの仲介により、VVVフェンローやFCフローニンゲンはJリーグとビジネスを展開したそうだ。
ズウォレも同じく、このタイミングでJリーグとのコネクションを持ち、それ以降、ずっと日本の市場を観察し、日本人獲得を狙っていたとのこと。そのリストには後にバルセロナへ移籍する、安部裕葵選手の名前もあったとのこと。
- 2017年
- 英国の仲介者
- Jリーグ
と聞けば、ピンと来る方も多いと思います。定かではないので明言は避けますが、>英国の仲介者のビジネスの延長線にヨーロッパクラブによる日本人獲得があったことが想像できます。その後、2019年の1月にズウォレは中山選手の獲得を実現します。この移籍の経緯でAdriaan Visser会長は、EU圏外の選手の獲得は給与面以外でもコストがかかり、クラブにとって大きな負担ではあったが、日本の”共同出資者”を見つけることにより、この移籍が実現したと言っています。
個人的にはこういう移籍の背景に興味がありますし、もっともっとこういったビジネス背景のある海外移籍が増えて欲しいです。ただここでしっかり伝えなければならないのは、ビジネス目的だけでは移籍は実現しないと言うこと。中山選手の実力、実績がズウォレのスカウトの目に留まり、移籍に向けて動き出したのは間違いありません。
私もヨーロッパクラブの日本に対するマーケティングの仕事をしていますが、
と相談を持ち掛けると、
とすぐに逆質問されます。日本人はスポンサー目的での選手獲得に対して、選手を使ってビジネスをすることに「ネガティブ」なイメージ(私見ですが)を持つ方が多いのではないでしょうか?
ただ、ヨーロッパ、海外のスポーツビジネスであれば、これは当たり前です。フロントスタッフにとって、選手は大切はコンテンツ(商品)です。そのコンテンツを使って事業収益の最大化を常に考えている彼らにとっては、いやらしさの無い、普通の質問なんです。
共同出資者の存在はわかりませんが、おそらく東京オリンピックの控える日本の、ましてやU23日本代表のキャプテンマークを巻く中山選手が、ビジネスの側面でクラブと共同出資者双方にとって、新たなビジネスを生み出す可能性があることは間違いないでしょう。今後のズウォレの日本に向けてのマーケティングに密かに注目しています。
また東京オリンピック・パラリンピックの日本選手団とオフィシャルスポーツウェア契約締結や本大会のゴールドパートナー(スポーツ用品)にもなっているアシックス(ASICS)さんが中山選手と契約したことも、中山選手個人が持つ魅力、コンテンツとしての存在価値(広告価値)があることが証明されていますね。ちなみに中山選手の履く、アシックスさんの「DS LIGHT」は私も大学サッカー部時代に愛用していた時期がありましたが、コスパも良く、何より軽くて、運動量の多い中盤の選手にはオススメです。
ロックスター
特集記事で紹介されてたのは、オランダで共に戦っている他クラブの日本人選手と定期的に食事をしているとのこと。場所はアムステルダム周辺で、寿司を食べながら、お互いの苦労話やサッカー談義に華を咲かせることもあるとのこと。
日々、外国人選手との競争、そして異国での生活に苦労している日本人選手にとって、必要な時間であり、ここで得たエネルギーをまた翌日からのトレーニングに向けていくのだろう。現在のオランダ・プロサッカーリーグエールディヴィジには若手の日本人選手が多く、共通の話題や、共有できる内容が多いのでしょう。
また中山選手はオフの日を利用して、当時VVVフェンローでトレーニングに参加していた本田圭祐選手(現ボタフォゴ)に会いに行き、1時間程ゆっくり会話をすることができたとのこと。その時間の中で得た刺激が中山選手のリーグ後半戦の活躍に繋がっているのかもしれません。本田圭祐選手との内容の詳細までは書いていませんし、また中山選手がそんな表現をしたかは定かではありませんが、
という表現があり、妙にしっくり来てしまいました。中山選手にとって、オランダの先駆者でもある本田圭祐選手の生き方は、まさしくロックスターのようなのでしょうね。イタリア・セリエAに於ける、カズ選手や中田英寿さんのように先輩達の存在は、海外での成功を夢見る若者にとって、道しるべであり、越えなければならない存在。憧れであり、ライバル。ロックスターの存在は挑戦し続ける若者を勇気づけるには必要な存在である。
ハードワーク
これは、当たり前すぎることで敢えて言う必要もないのかもしれませんが、日々の練習に全力でハードワークするメンタリティを持ち続けられるかどうかだろう。
移籍当初は慣れない生活環境で、
や監督が選手の実力を見極める為に必要な時間等で、
が起こり、出番が巡ってこないことが多いかもしれません。モチベーションが保ちにくい状況が続く、この期間も日々のトレーニングに全力で取り組むことができるかどうかが重要です。
これは、少し話がズレるかもしれませんが以前、あるヨーロッパクラブの練習を見学していた際、ケガの影響でリハビリメニューに取り組んでいた代表クラスのスペイン人選手のそのリハビリに取り組む姿勢、表情、目つきに公式戦に臨んでいるかのような“ギラギラ”感を感じたことを覚えています。
まだチームの全体練習への合流には時間がかかる段階だと思いますが、そのまなざしは確実に
という想いをその場にいる誰もが感じ取れたと思います。
海外移籍に限らず、選手が活躍し、成功を収める為にはどんな状況であれ、与えられた環境、ポジションで自分を信じ、ハードワークを続けることが大切です。
ここで紹介したいのが、スペイン・プロサッカーリーグの「ラリーガ」に所属すレアル・ベティスのマーケティングです。彼らはこういったリハビル中の選手の情報でさえも、コンテンツとしてスポンサー獲得しています。参考に下に貼り付けますが、選手のケガ情報のTwitter画像と一緒に、チームのオフィシャルメディカルパートナーである「asisa」さんのロゴが下部にバッチリ露出されてますね。
🚑 MEDICAL REPORT | Diego Lainez has been operated for appendicitis ⛑😔
— Real Betis Balompié (@RealBetis_en) February 15, 2020
You’ll be back soon, @DiegoLainez10! 💪🆙
➡ https://t.co/HERUiWl4IR pic.twitter.com/jfBtzZhxaj
そもそもの日本と海外チームの情報発信の違いにもなってくるのですが、日本のチームの場合、選手のケガの情報はあまり発信しません。が、海外のチームの場合、このTwitterのように選手のケガ情報をすぐに発信することが多く見受けられます。この違いの定かな情報はわかりませんが、私の私見でお話すると、日本は情報作戦(選手が試合に出るか出ないかを隠す)の感覚があり、海外の場合はケガをした選手はそもそも練習も別メニューになりますし、試合に出なかったり、ベンチ入りしなかった場合、サポーターやメディアがすぐに、
など、様々な情報が錯綜し、選手の為にもならないので情報発信をするのではないでしょうか?以前、実際に選手からもこのケガ情報の海外と日本の違いについて聞いたことがありますが、ケガをして練習や試合に出れないのに、チームから正式なリリースがないと、自分自身も他人にケガの事を話せないし、ファンから変な心配をされるので、先にチームが情報発信してくれたほうがベター、と言ってました。
日本と海外チームのスポンサー獲得の為のスポンサーライツ(スポンサーになることでチームから得られる権利)違いも面白いので、今後このブログでもその違いをご紹介して行きたいと思います。
まとめ
少し長くなってしまいましたが、海外移籍に必要なことについて簡単にまとめたいと思います。先にご紹介した4つの項目を内的要因と外的要因に分類すると、
ロックスターに関しては、ロックスターの存在という外的要因が、モチベーションのアップという内的要因に起因するので、どちらとも言えますね。ここでお伝えしたいのは、海外移籍に限らず、移籍の成立には、そのタイミングの選手のコンディション、パフォーマンス、モチベーションなどの内的要因と、チームの順位や戦力状況、財政状況など、外的要因の比重も多く関わっていくことから、チーム内では多くの時間と労力がかかっているという事です。
ひとつの移籍に関しても、様々なドラマがそれぞれにあり、そのドラマがファン・サポーターに伝わることにより、より一層、チーム・選手が好きになる。
プロスポーツビジネスの最大の特徴は
- ファン・サポーターのチームとの感情的タッチポイントが多い
- 感情的タッチポイントを利用した企業ブランドの浸透度が高い
- ネガ・ポジ両方の感情をビジネスチャンスに変えられる
です。
ファン・サポーターの感情が動く瞬間がチームにとっても、そのスポンサー企業にとっても、最大のマーケティングチャンスであり、この瞬間瞬間を繊細に捉え、先を予想することが、スポーツビジネスの現場で働く人たちの腕の見せ所です!
今後も、
など今後も海外のスポーツビジネス情報を中心に、私の経験を織り交ぜながら発信して行きたいと思いますので、引き続き宜しくお願い致します。
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